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定年退職したサラリーマンよ、一読したら

f:id:kuromekawa28:20150126191247j:plain河出文庫

 一昔前の作家ともいう源氏鶏太、昭和のサラリーマンの小説を書き続けたもっとも忙しい作家の一人だった。「停年退職」はその彼の中期の代表作で、新聞にも連載された小説である。

矢沢章太郎は北陸の旧制高校を卒業して、東亜化学工業なる会社に勤めるサラリーマン、現在は厚生課長だが、半年後には停年を控えている。5年前に妻を亡くし、長女ののぼるは22歳、長男の章一は高校生だ。停年後の身の振り方に頭を悩ませているが、まだピンと来ない。

サラリーマンの停年が55歳だった時代で、年金制度も整いつつあった。しかし、それが当てにできなかったのか、章太郎は再就職先を探すしかない。<章太郎は、卓上カレンダーをめくって、九月一日を出した。そこへ、赤鉛筆で「停年退職」と書き、更に、八月一日のところに、「停年退職一ヶ月前」と書いた>。

こうして物語は章太郎の停年までの半年間を追う。自身の再就職問題、商社に勤める娘の失恋と結婚問題、女性社員の不倫、・・・。その上会社の派閥抗争の影響で章太郎は厚生課長の座を追われ、停年間際に参事室勤務と言う閑職に飛ばされる。とは言え、あまり悲壮感がないのは、終身雇用制と年功序列賃金を背景にした安定した時代だったからでもある。

章太郎には3年越しの愛人がいた。再婚話は浮上するも、家には住み込みの頼もしいお手伝いさんがいて、万事取り仕切ってくれる。羨ましい境遇なのだ。結末はハッピーエンド、章太郎が目にかけていた部下と娘ののぼるが結婚、再就職先も決まった。

問題の9月1日<章太郎は、一切のみれんを振り捨てるようにして立ち上がった。「停年退職」と朱書したカレンダーは、そのまま、残されてあった>。