今こそ、青少年に読んでもらいたい

f:id:kuromekawa28:20150514172938p:plain 新潮文庫

 下村湖人作の有名長編小説です。太平洋戦争の始まった昭和16年に第一部の出版が、全五部までの長編シリーズ物です。

 

主人公の本田次郎は生まれてすぐに里子に出され、幼少時を乳母のお浜夫婦の下で育った。家に戻っても兄や弟となじめず、母のお民は次郎に厳しい。経済的に困窮した一家は家を売って小さな酒屋を開くが、次郎は母の実家に預けられ、やがて次郎に辛くあたったことを詫びて母は病没する。ここまでが第一部である。この後は、父の再婚、受験の失敗、浪人して入った中学での出会いと少年が成長し、社会性に目覚める過程を描いた教養小説なのだ。

 

 次郎の「愛されたい」という願望は、特異な幼少時に里子に出された経験がその人格形成に大きな影響を与えた。傍目には父にも乳母にも祖父にも十分愛されているにも拘わらず・・・。第四部までは、中学で出会った尊敬する朝倉先生が5・15事件を批判して学校を追われ、次郎も続いて退学する。第五部に入り、次郎は東京で私塾を開いた朝倉先生の助手をしながら私立中学に通う。彼は郷里の道江に恋する。でも道江は次郎の兄の恭一が好きなのだ。

 

小説は次郎のだらだらと書いた日記で唐突に終わる。<里子! 何という大きな力だろう>と、また<ぼくは、あるいは疲れすぎているのかもしれない。今日は、日記を書くのはもうやめよう>となって終わる。どこか道徳臭い匂いが漂うのは、教育者だった作者の視点があるからかも知れない。