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舞台や映画で有名な悲恋の物語

f:id:kuromekawa28:20150818173055j:plain新潮文庫

 「切れるの別れるのって、そんなことはね、芸者のときにいうものよ」というセリフ、聞いた人は多いかも知れない。ご存知、泉鏡花作の「婦系図」の一節、元芸者のお蔦が湯島天神で言うセリフである。

 

 主人公の早瀬主税は恩師の酒井俊蔵の下でドイツ語を修めた陸軍参謀本部の翻訳官で、柳橋の芸妓だったお蔦と所帯をもつが、恩師の酒井には内緒である。そこへもちあがった酒井の娘・妙子と静岡の病院の御曹司・河野英吉の縁談、河野母子に妙子の身元調査を依頼された早瀬は怒ってこれを断る。しかし、その早瀬もお蔦との関係を見とがめられ、<俺を棄てるか、婦を棄てるか>と迫られ<婦を棄てます。先生>と誓う。

 

 後半は、東京での職を追われ、お蔦とも別れて静岡に移った早瀬は、人を血筋や経歴で判断する世間と河野一家への復讐に生きる。河野家の家長・英臣と久能山東照宮で対決した早瀬は、修羅場の中で河野家の人々が次々に死んでゆくのを見届ける。そしてその夜清水港の旅店で<お蔦の黒髪を抱きながら、早瀬は潔く毒を仰いだのである>。

 

 鏡花は、モデル問題などもあり、この結末でずいぶんと悩んだらしい。

早瀬もワルだが、河野家の女たちの悪女ぶりも相当なものだ。では、一体お蔦はどういう登場人物だったのか?見方によっては端役とも思える内容だ。