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社会派推理小説の傑作

f:id:kuromekawa28:20150907093904j:plain新潮文庫

 舞台の設定は1947年、<海峡は荒れていた>という始まりから海難事故の概要をたどることになる。正確には9月26日、折からの台風で青函連絡船洞爺丸が沈没する。死者は最終的に1000人を超す大事故となった。その同じ日に、北海道岩内町で死者35人を出す大火があった。また、作家水上勉を一躍有名にした小説でもある。

 

 海難事故の死者は532人、だが乗船名簿より2体多い。一方の大火の出火原因は強盗殺人犯による放火と推定されたが、警察は3人組の容疑者を取り逃がす。この二つの惨劇を発端に、事件を追って函館、青森、東京、舞鶴と動いて行く。

 

 僻村に生まれるも事業で成功し、篤志家として名をなした犬飼多吉こと樽見京一郎と青森で酌婦をしていた頃に京一郎から受けた恩を忘れず、10年後に舞鶴まで彼を訪ねて行って命を失う杉戸八重の二人の凄絶な半生が物語の中心である。

 

 舞鶴東署の味村刑事が京一郎を伴い現場検証のため函館へと向かう。

津軽海峡にさしかかる頃、味村の背後で人の動きが、手錠をかけられた樽見京一郎が海に飛び込んだのだ。一同蒼白になるも<世紀の犯罪人が消えた海をただ呆然とみつめるしかなかった><北の沖の方が一瞬黒くなった。海峡に日が落ちたのだ>と、警察の大失態と海峡の落日の重なる最終部分が印象的だ。

 

 余談だが、この小説は映画化され、監督は内田吐夢、主人公の樽見京一郎には俳優の三国連太郎が、杉戸八重には左幸子が演じた。名監督、名優が演じた映画も大変なヒット作になった。