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赤いカーテンに包まれた体制下の学校で何があったのか

f:id:kuromekawa28:20160413185006j:plain集英社文庫版

 1960年台のチェコの首都プラハにあったソビエト大使館付属の8年制普通学校で、ダンスを教えていた女性教師の人生が描かれているサスペンス溢れる長編小説だ。

この「オリガ・モリソヴナの反語法」という題名からして、いかにもロシア通の作である米原万里らしい小説に思える。オリガ・モリソヴナというのが自称50歳の女性、子供の目からは70歳にも80歳にも見えるのだが、オールド・ファッションの衣装に身を包み、髪は金髪に染め、真っ赤な口紅とマニキュアという度肝を抜くようないでたちなのだ。

日本人の生徒としてこの学校にいた弘世志摩は彼女に魅了されていたのだが、オリガは同僚のフランス語教師のエレオノーラ・ミハイロヴナとともに、ある日突然、解雇されてしまう。

それから約30年、ソ連崩壊後の1992年、大人になった志摩は、かっての同級生のカーチャとの再会を果たし、オリガとエレオノーラの消息を訪ね始める。ふたりの前半生にはスターリン時代のラーゲリ強制収容所)に絡む重い歴史が隠されていた。

反語法とはオリガ独特の表現方法で、「まあ天才!」「震えが止まらなくなるような神童!」「想像を絶する美の極み!」といったいずれも逆説的な悪罵なのだ。28年ぶりに再会した志摩とカーチャも言い合う「ずいぶん痩せたんじゃない!」と。

 すべてを知った後、ラストで志摩とカーチャはひとつの重大な事実に気づく。

<オリガ・モリソヴナの全てが反語法だったのだなとも思えてくる><まるで喜劇を演じているかのような衣装や化粧や言動>は<悲劇を乗り越えるための手段だったのだ>と。「おーい、絶体絶命だぞ!」と、飛行機の時間が迫る中で、タクシーの運転手が叫ぶ。<志摩はカーチャとともに車に向かって走り出した>

 

 反語法なら「絶体絶命」は「まだ間に合う」の意味なのだ。