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いまの若者に捧げたい

f:id:kuromekawa28:20150209140028j:plain 講談社文芸文庫

 目標を見失い、あるいは見つけれない若者が増えている。馬鹿な犯罪に手を染めても目立ちたいという今時の若者心理には困った現象で、もう一度原点に戻って、この本でやり直して欲しい。

少年倶楽部」という少年向けの本があった。そこに連載されたのが「ああ玉杯に花うけて」というこの小説で、作者は50歳を過ぎた佐藤紅緑という人だ。連載が始まるや、一躍人気作家となった。

主人公の青木千三は15歳、身体は小さく「チビ公」と呼ばれていた。幼い頃に父を亡くし、いまは母と二人で豆腐屋を営む伯父夫婦の家に身を寄せている。成績優秀なのに家が貧しく進学をあきらめた彼は、中学で学ぶ少年たちが羨ましくて仕方がない。

旧制中学の進学率が10%以下だった時代、浦和を舞台にした少年たちのドラマが内容である。貧富の差、恵まれた者とそうでない者の差を残酷までにあぶり出す。スーパーマン的優等生の柳光一、助役の息子で千三が売り歩く豆腐を強奪するジャイアント級の阪井厳、医者の息子でスネ男よろしくずる賢く立ち回る手塚などが登場人物である。

豆腐屋を手伝いながら、黙々と私塾に夜だけ通い始めた千三は、そこで塾OBの安場に出会う。貧しい境遇から自力で旧制一高に進学した安場は黙々と先生の教えを千三に伝える。強くなりたければ臍下丹田に力を入れろ、先生に「へそをなでろ」といわれた自分は難問に出会うといつもそうしていると安場は話す。

「ああ玉杯に花うけて」とは旧制一高の寮歌の歌い出しで、物語の根底に流れているのは、勉学に励んで貧しさから抜け出せという明治以来の立身出世主義である。

貧しくても未来を信じて勉学に励め、というメッセージが新鮮でまぶしい。