アジアを旅して非日常を感じる

f:id:kuromekawa28:20160425121429j:plain新潮文庫

 小林紀晴著の「アジアン・ジャパニーズ」は、ある日本人による発信だ。

2002年夏に、私はタイのバンコクの安宿にいた。3畳ほどの部屋のベッドに横になり、天井の扇風機を眺めながら「旅の日常に埋没していくんだ」という言葉を思い浮かべる。バブルの余韻が残る1991年、23歳で新聞社を辞めた著者は、ザックに240本のフィルムを入れてアジアへと旅立った。

 アジアの喧騒を感じさせない静かで繊細な写真、優しい眼差しと不器用さが滲む文章に強烈に惹かれる。

 7年後、私はインドシナ半島を旅していた。終わりを決めない初めての旅は、自分が日本人だと感じずにはいられない旅でもあった。フィルムからデジカメへと変わり、ネットの普及で、世界の情報をリアルタイムに簡単に入手できる。あの頃のアジアと今は違う。著者が出会ったような日本人の居場所は、今もそこにあるのだろうか?

 それでも、彼の描く旅は色褪せていない。

 旅を終えた著者の言葉が今を生きる私たちに語りかけているようで、妙にしっくりと来る。「嫌だったら、逃げればいいのだ。一生、逃げ続けたっていいのだ」逃げた先に答えがあるとは限らない。それでも「逃げる」という選択肢があってもいい・・・。

 

 窮屈な日本社会から飛び出し、アジアへ向かうことも、部屋でバーチャルな世界にのめり込むことも、案外同じなのかと思うかも知れないが体験は貴重な財産かも知れないよ。