年下青年と人妻の恋

f:id:kuromekawa28:20150627150822p:plain岩波文庫

 テレビドラマでは一番視聴率を稼ぐ題材ともいえる人妻と独身青年の恋愛を描いた小説、これが「クレーブの奥方」である。

舞台は16世紀の貴族社会、クレーブ夫人と独身のヌムール公は宮廷の舞踏会で出会い、お互い激しく惹かれあう。夫人は美しく貞淑な人妻、ヌムール公は野心家の美青年で、皇太子妃との仲も噂されていた。

<野心と恋愛とは宮廷生活の心髄のごときもので、男も女もひとしくそれに憂き身をやつしているのである>と語り手は述べる。これは中世の騎士道小説に由来する。

こうした中、「クレーブの奥方」だけが今日まで生き残ったのは、細緻な心理描写と悲劇的な展開による。夫のクレーブ殿に問い詰められた夫人はとうとう苦しい胸の内を明かしてしまう。嫉妬のあまり夫は心労がたたって死に、晴れて自由の身になった夫人は激しい後悔に苛まれる。

 <なぜあたくしがまだ自由だった時にあなたのことを聞き、婚約するまえにお会いしなかったのでしょう>と嘆く夫人と、<障害なぞないのですよ。あなたが勝手に私の幸福のじゃまをしておいでなのだ>となじるヌムール公だった。

しかし、夫人は公の求愛を拒み、田舎の別荘と修道院を行き来する生活に入る。<こうして奥方の一生は、それはかなり短いものだったが、ほかに類いのない貞淑の鑑としてたたえられたのである>と終わる。

愛しながらも、ヒロインが最後まで貞操を守ることが姦通小説の約束なのだ。