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女優のエッセイがテレビドラマに

f:id:kuromekawa28:20150719210734j:plain河出文庫

 見たことありますか?この名女優を、昭和の名脇役として女優であり随筆家でもあった沢村貞子さんです。「貝のうた」は、彼女の自伝的エッセイで少女時代を描いたもので、NHKの朝の連続テレビドラマ「おていちゃん」の原作になりました。

 

自身への夢を託して子どもは全員役者にすると決めていた父、兄は沢村国太郎、弟は加東大介、甥っ子は長門浩之と津川雅彦という俳優一家です。子役としてその道に入った兄や弟と違い、貞子は芝居は嫌いで学校が好きという。家庭教師をしながら女学校に通い、円本を読みあさり、教師になることを夢見る文学少女だった。

 

日本女子大まで進むが、ささいなことで教師に幻滅し、女優になろうと決心する。女子大に通いながら、山本安英のつてで新劇の研究生になった。ところがその劇団はプロレタリア演劇活動に傾斜していて、貞子もまた治安維持法違反で特高に逮捕されてしまった。

 

この本の中心を占めるのは23歳から通算1年8ヶ月にわたる凄惨な獄中生活である。不当な尋問、孤独な毎日、そして拷問など。懲役3年、執行猶予5年の判決が下りて釈放された彼女は振り返る。<働くものに幸福を・・・ということばに共鳴したけれど、私にほんとうに「働くもの」の気持ちがわかっていただろうか>、波乱万丈の前半生である。

 

釈放後は仕事も無く、兄を頼って映画界に飛び込んだ貞子は、ようやく脇役女優としての道を見つけるが、次に待っていたのは戦争だった。女学校時代には関東大震災に、戦時中には興業先の大阪で空襲にあった貞子、ラストは45年8月15日の終戦の光景である。<とうとう、また生きのびた。戦争は終わった。日本は敗れた>と書く、しかし最後の一文は<あちこちの窓から、ほんとうに何年ぶりかで、あかるい光がパッと輝いていた>と、なにげない文章に込められた開放感が湧いて出た素晴らしい幕切れである。