奇想天外な仏教にまつわる物語

f:id:kuromekawa28:20151007095012j:plain岩波文庫

  ここにある「西遊記」は、これまで多くの人に読まれ、マンガにもされた孫悟空というサルが主人公の物語、本当の主人公は玄奘三蔵というお坊さんが16年にわたる旅をするものだ。このお坊さんは唐の時代の実在の人物、天竺(インド)への旅をして長安に経典を持ち帰ったのが645年とされている。

 

 作者は呉承恩という人とされていたが、近年に疑問視され数人の共作ではないかともいわれている。全部で10巻にも上る物語は、大きく分けて四つの部分になる。

第1巻~7回までは、花果山の石から生まれ、仙術を学んだとされるサルが孫悟空で天界で大暴れする。次いで、500年後に如来の命で下界に降りた観音様が取経者を探す話。その後、唐の太宗皇帝が一度は死ぬが冥界からよみがえって玄奘を見出すまでの話。そして、天竺をめざして旅立った玄奘孫悟空猪八戒沙悟浄らに出会って旅を続け、経典を持ち帰るまでのめでたい「西天取経」の故事の話である。

 

 行く先々で妖怪に出くわした一行が得意の術で切り抜け、困難な旅を続けるところが主に子ども向けの本に集約されている。完訳版には、艶っぽい逸話などもあり楽しみもある。5040日(約14年)かけて西天に辿りついた一行は、経典を手にして帰路につき唐に戻って太宗の歓待を受ける。ところがそこに天から如来の使いが現れ、彼等は西天に連れ戻される。やがて如来に前世での罪を許された一行、「お師匠さま、いまじゃおれさまも、あなたと同じように、仏になった身なんですぜ」と孫悟空は三蔵に頭の金箍(きんこ)を外せと要求するが、もう輪は外れていた。

 

 最後は「仏法僧」を表す教典の一節、<十万三世一切仏 諸尊菩薩摩訶薩 摩訶般若波羅蜜>を現代語に訳すと、<あらゆる時空の仏よ、諸尊と菩薩(僧)よ、大いなる智恵(法)よ。皆が唱える経ですべての奇譚が浄化される>との有難いお言葉である。