世の男たちに告ぐ警告を読んで見たら
新潮文庫版
日本近代文学の祖ともいわれている二葉亭四迷の「浮雲」は、初の言文一致体の小説とされる。
小説は<千早振る神無月ももはや跡二日の余波(なごり)となった二十八日の午後三時頃に、神田見附の内より、塗渡る蟻、散る蜘蛛の子とうようよぞよぞよ沸出でて来るのは、孰(いず)れも顋(おとがい)を気にし給う方々>と始まる。
これは官僚が仕事を終えて役所を出て来た場面、現在の千代田区大手町付近である。
この集団には、主人公の内海文三23歳も混じっていた。叔父の家に下宿して官僚になったが、じつはその日、彼は役所をリストラされていた。ここから彼の苦悩が始まる。
失業以来、従妹のお勢が冷たくなり、元同僚の本田に急接近しているのがおもしろくない。お勢を浮気者呼ばわりして自室に閉じこもってしまう。
物語は文三がお勢にもう一度話をして、ダメだったら叔父の家を出ようと決心する。
<今一度運を試して聴かれたらその通り、若し聴かれん時にはその時こそ断然叔父の家を辞し去ろうと、遂にこう決心して、そして一(ひと)と先(まず)二階へ戻った>
立身出世コースから落ちこぼれた「負け組」の文三、俗物だが「勝ち組」の本田のふたりの男を天秤にかける18歳のお勢とは現代のギャルそのものではないのか。